学生たちが幼稚園実習を行なっているので,私は指導訪問に出かける。保育所の場合と違い,子どもたちが園で過ごす時間が短いため,幼稚園の場合は午後2時までには訪問しないと,子どもたちが降園してしまって子どもと関わっている実習生の様子を見ることができない。
本来ならば,ゆっくりと訪問して,私自身も子どもたちとふれ合いながら実習生の様子を見てアドバイスしたいが,私のスケジュール管理が甘いせいか,そのための時間を取ることができない。昨日今日だけで九つの園を回り,園長先生たちとの事務的な面談と実習生への短い声がけで済ますことになってしまった。
ところで,私も気がつけば三十半ば。幼稚園へ行くと,そんな自分が端からどう見えるのか,子どもたちの視線から評価を受けることができる。スーツを着て訪問するから,ちょっとハンデがあるにしても,さて,子どもたちからどう呼ばれるかは気になるものだ。「あのひと,だぁ〜れ?」
「おとうさん?!」というのはよくある声。「誰かのおとうさん?」なら園児たちの親になるが,「先生のおとうさん?」となるとビミョ〜か。「新しい先生?!」というのはまれなケース。若い先生というニュアンスが感じられる分,ちょっと嬉しいかも知れない。
正体を明かすために「先生の先生だよ」と説明することがある。この説明は理解できる子とできない子に分かれる。以前は少なかったが,最近は「大学の先生?」と大学の存在を認識している子もたまに居たりする。
「だぁ〜れ?」と問いかけるも何も,いきなりニコニコ笑いながら,足下にガバッと抱きついてくる子もいる。チャンバラごっこしている子たちは,いきなり敵に見立てて斬りつけてくる。こっちも「やられたぁ〜」と即応してしまうので,実習生との面談は,たいがい中断する。
一番手痛いのは「おじさん,だぁ〜れ?」だろう。そりゃもう,園児たちからすれば立派なおじさん。いまさら反論する気もないし,ただただ事実を受け入れて微笑むだけ(そして心で泣いて‥‥)。負けてはいけません。気持ちは20代です。いえ,心は少年です。でも,そんな風に物事を達観してしまうことが,年輪となってしまうのでしょうか。青年は物思いに沈むのでありました。
ただ,今回の実習では「おにいさん,だぁ〜れ」もあった。すばらしい。2つの園でそう呼ばれた。どうやら「見た目雰囲気年齢メーター」は,少し若い方へと目盛りを戻したようだ。そういう園児は思いっきり褒めてあげよう。それから若々しい自分も褒めてあげよう。(はい,そこで物言いたそうな顔しているのは誰ですか?)
様々な園で,実習生たちは頑張っていた。短い期間にたくさんのことを指導してくださろうとする園の努力が,ときに厳しく感じられることもあり,中にはちょっと辛い気持ちの学生もいた。一方で,園の先生たちの雰囲気の良さのおかげで楽しく過ごしている学生もいる。場面によっては実習生一人で立派に子どもたちと関わっている様子も見受けられた。そのまま就職してもいいくらい堂々としたものだった。
各人各様だが,寝不足という学生も多く,実習期間の大変さはみんな一緒。「頑張ってる?」なんて声をかける程度で,大したアドバイスもできずに次の園へと移動しなくてはならないが,学生から「先生の顔が見れて嬉しかったよぉ」と言われれば,それだけで慌ただしい実習訪問に飛び回っている甲斐はあったというものだ。
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