大学祭が近づいてきた。そういうものは学生の行事なので,教員が関わることは珍しいのだが,小さい短大であるゆえに,高校の文化祭のようにある程度は関わらないといけない側面もあるのだ。
関わる以上は楽しむ質なので,今年もラジオ放送することにした。これで3年目。結構思い入れがあるので,あれこれ研究しながら,しっかり技術進歩をしているつもり。
【1年目】ロビーを舞台にDJ番組。といっても会場PAのみなので,その場で楽しむだけ。音楽送出やミキサーの使い方なんかを自己流でやってみるが,いろいろ問題も発見。今後の課題となる。
【2年目】ゼミ生を巻き込んでラジオ番組製作。昔流行った「ミニFM」を実践するため「FMトランミッター」を手に入れる。少しずつ買い増した機材をごちゃごちゃつなげて本番。放送はできたが,レコーディング技術の知識が足りないと痛感。
【3年目】再び自分だけで企画。今年は大学祭当日にやらず,ブレ企画として前日までの4日間放送することにした。番組収録後,ポッドキャスティングでインターネット配信をする。本当はインターネット生放送もしたいが,これは来年の課題か。
来年あたりで技術的なチャレンジは完結しそうである。とにかく,やたらと仕掛けだけは立派になっていくが,番組の方は行き当たりばったり,そのときの気分次第で進行することになりそう。まあ,楽しめればそれでいい。
とにかく,学校から借りられる機材と自腹で揃えた機材を駆使してラジオ放送システムを構築するだけでもなかなか大変なのだ。今年は3年目ということもあって,システム自体はとてもシンプルな出来映え。まだいくつか技術的なチャレンジがあるので,本番直前まで微調整になるだろう。
こういう事柄に興味のある人たちのために,検索でひっかかることもあるだろうから,少しばかり解説を書いておきたい。必要な機材はいろいろあるが,基本的なところでは次のようなものが必要だ。
・マイク(入)
・音楽送出機材[CD,MDプレーヤー,iPod,パソコンなど](入)
・ミキサー(編)
・コンプレッサー(加)
・アンプ(加・出)
・スピーカー(出)
・ヘッドホン(出)
・FMトランミッター(出)
・ケーブル各種
・延長コード
わからないものもあるかも知れないが,要するに音を「入力」→「編集加工」→「出力」するという流れを担う機材を揃えればいいということになる。
マイクや音楽プレーヤーなどの複数の入力源を束ねて編集するのがミキサーであり,ミキサーから出てきた音を加工する機材の一つがコンプレッサー,そしてそれを会場に聴かせるならアンプを通してスピーカーに,電波に乗せるならFMトランミッターに,自分で確認するために聴くならヘッドホンに,インターネットストリーミングがしたいならパソコンに出力してやればいい。
厄介なのは,その機材同士をどう接続して,接続後にどう調整するかである。そこで大きいのはケーブルの選択。なにしろオーディオ関係のケーブル端子には様々な種類があって,これらが機材毎に異なっているからさぁ大変。すべてがプロ仕様の機材ならそういう悩みも少ないが,素人の貧乏人が揃えられる機材のレベルだとコストや使いやすさを配慮して,端子の仕様にいろいろなアレンジがなされている。これが逆に機材同士の接続の障害になったりする。要するに対応するケーブルがないとダメなのだ。
たとえばマイクの場合,プロ仕様だとXLR(キャノン・コネクター)という端子が使われる。ところがお店で見かける民生用といわれるマイクの多くは,標準フォーン(標準プラグ)というタイプか,皆さんがヘッドホンで見慣れているミニ・タイプのもの。そのほかに,音楽プレーヤーとの接続の際には,ヘッドホン端子の場合のミニ・タイプを始め,ビデオなんかによく見られる白と赤に分かれたRCAピンというタイプがある。あらかじめ配線設計ができていないと,これらの変換で大変手間取ることになる。
さらに,付け加えるならば,私たちはステレオ端子というものに慣れていて,一つの接続で事足りるような感覚を持っているが,音響機材は左右の音を独立して扱うのが基本なので,ステレオとモノラルの変換もケーブルの選択の際に考えておかなければならない。はっきり言って奥が深い。
それでは「入力」「編集加工」「出力」の順でコメントを。
「入力」
マイクにはいろんな種類がある。ボーカル用マイクやスピーチ用マイク,会議用マイクなど様々だ。それぞれ特性があるので用途にあったものを購入したい。カラオケなどで知られているマイクのタイプは「ダイナミック・マイク」と呼ばれるもの。一方,周囲の音を録音するとか,感度良く録音したい場合に使用されるのが「コンデンサー・マイク」というタイプのもの。ラジオなどのパーソナリティがしゃべっているのもこのコンデンサーマイクのことが多い。スタジオの臨場感を集音できるためだと思われる。コンデンサー・マイクはとてもデリケートな上,使うためには電源が必要という特徴もある。
音楽などを送出するためのプレーヤーは,CDやMDデッキなどでOK。ただし複数台必要である。2つの曲を切り替えるためにはどうしても2台必要だからだ。最近はiPodなどもあるから便利だろうが,イヤホン端子への接続は何かとトラブルが起こりがちなので,確実に接続するためにドックを利用する工夫も欲しい。
「編集加工」
マイクや音楽プレーヤーと接続して束ねる役目をするのがミキサー。ラジオ局やレコーディングスタジオに,ボタンやつまみがズラッと付いている機械が置いてあるが,あれがプロ用のミキサーである。一つの入力源がつながる部分を1チャネルと表現する。入力源が多ければ,このチャネルもその分必要なので,プロ用となると100弱のチャネルがある。アマチュアや個人用には,4チャンネルの単純なものや12チャンネルの入門機(ヤマハ製等)などから入手できる。
それぞれの入力源をどれだけの感度で取得して,どれだけの音量で出力に流すのかを決めるのが基本。その他,高音や中低音などを調整したり,ステレオの左右どちらに振り分けるかを調整したりする機能もある。
エフェクターと呼ばれる音を加工する機械と組み合わせて,高度な編集加工を実現することもある。この加工を担当するエフェクターという機械には,その加工の仕方によってさらに細かい分類があり,コンプレッサーという加工もその一つである。
コンプレッサーというのは,編集して組み合わされた音を適正な音量に圧縮する働きをする。教えてもらったところによれば,音を整えて聴きやすくしてくれる効果があるという。確かに,ミキサーで混ぜ合わせた音は,総じて音が大きくなってしまいがちで,だからといって入力源の音量を小さくするとマイクでしゃべっていることが聞こえなくなってしまう。コンプレッサーは,必要な時には音を底上げしてくれて,一定程度を越えると音を圧縮して押さえてくれるので,聞きやすくなるのである。
しかし,この部分も奥が深くて,同じミキサーやコンプレッサーでも,方式や機械種類によって特徴が異なるらしい。
「出力」
PA(Public Address)というのはコンサートやイベント会場などの音響システムに関する仕事や分野の総称。つまり,PAにおける出力とは,スピーカーで音を出すということだ。スピーカーで大音量を出すためには,音(スピーカー)にパワーを加えるためのアンプが必要になる。というわけで,スピーカーとアンプを用意する。有名なのはBOSE社の製品。
会場でスピーカーを使って出力する場合,悩ましいのはハウリング。なるべくスピーカーを前面に出して,出力音をマイクが拾わないようにしたいが,場所の関係上どうしてもスピーカーの音が入る場面もある。調整が難しい。
さて,電波によるミニ放送をする場合,本来は電波を送出するための「FMトランミッター」という機械を使用する。ミニFM放送は,1992年に制度化されてから認可制のコミュニティFMが主体となって,「個人放送局」という手軽さがなくなってしまった。FMトランミッターも,個人が入手できそうな手軽なものはなく,カーラジオへ送信するためのものしかない。なかなかお寒いのである。
そこで,その代わりに強い味方になってくれそうなのが,インターネットだ。ポッドキャスティングについては先日の駄文でもご紹介したが,録音したラジオ番組をMP3フォーマットで保存し,ブログに登録すれば,ポッドキャスティングのしくみを使って配信することができる。リアルタイムではないが,気軽に放送局を立ち上げるならこれが一番だ。80年代のミニFMブームが,21世紀にポッドキャスティング・ブームとして再来しようとしている。まあ,そうだといいな。
インターネットによるリアルタイムの放送(ストリーミング)を行なうことも難しくなくなった。Windows Media PlayerとかReal方式にこだわるとちょっと面倒くさいのだが,Mac OS XとQuick Timeを使うと簡単にできてしまう。ビジネスではないので,DRMとか気にしないならばQuickTimeが一番便利だ。iTunes普及のおかげで,WindowsユーザもQuickTimeをインストールしている率は徐々に増えているはずだし。もっと見直されてもいいはずだ。
以上,相変わらずごちゃごちゃ書いた。ミニFM放送は,機材の問題もあるので,むしろメインはインターネット放送に切り替わることになるだろう。ポッドキャスティングは確かに有望株だ。構内放送PAとしてなら,無線LANによるオーディオ転送機能を利用するのもいい。今回の放送では,これを実験してみる予定だ。とにかく,ラジオ番組を楽しまなくちゃ。
最近のコメント