西オーストラリア州パースに到着したのは早朝。ホテルに着くものの,チェックインは2時まで待たなければならなかったので,街をぶらぶらして時間を潰すことになった。
ご存知のように南半球にやってくれば季節は夏。日本と違って湿度はカラッとしているから過ごしやすいけれど,日差しを受けると暑い。数日前には気温が40度まで上がったというのだから,ここにも温暖化やエルニーニョの影響はやって来ているというわけである。
ところが,私たちが来てからというもの,天気は不安定。気温も30度まで上がらない日々が続いている。どうも日本から一緒に雲も連れてきたらしい。
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滞在初日はちょっとした観光と滞在の打ち合わせを行ない,翌日から学校視察が始まった。私たちの視察は主にメディア・スタディの教育実践を対象としている。そのため情報機器の利用が当然のように行なわれている授業を見ることになった。
一方,他の科目のICT活用状況については通りすがりで眺めるか,インタビューで伺うくらいしかできていない。その限りで感想を述べれば,全体の教科目におけるICT活用は日本と同程度か,遅れている様にも感じた。国による導入を徹底しているイギリスと当然比べものにならない。
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最初に訪れたのはOcean Reef Senior High Schoolである。公立高校で,Year8からYear12の生徒が通う。日本でいえば中学高校の生徒である。ちなみに学年表記であるYear8などの数字に「5」を足せば年齢になるので適宜計算していただきたい。とにかくYear8ときたら「中学一年生だな」と思い,Yaer11と12と見たら「高校生だな」と感じれば日本と比較しやすい。
朝のHRが終わってYear12のメディアの授業を見る。実は新学期が始まったばかりなので,この授業も始まったばかり。今回のテーマは「Back to Basic Task」ということで,ビデオカメラの撮影テクニックを実践しながら確認するものだった。おそらく一通りの知識や技法を押えたあとで作品制作に取りかかることになる流れだろう。
50分授業のうち,手短に授業のねらいと重要事項を確認してから,映画「カサブランカ」の一部を使い実際のカメラワークを映像で確認する。その後,5人程度のグループに対してビデオカメラを配布。約20分間の時間的猶予の中でシーンを重ねたショートフィルムを制作したあと,すぐに鑑賞をしながら先生がその場でレビューし,次回の撮影のための課題をフィードバックする。
基礎の復習というパートということもあり,授業そのものに際立った特徴があるわけではない。ほのぼのとした雰囲気の中で展開していたこと,そして学校環境の良さに支えられていることを感じる程度である。
担当の先生は,訪問した私たちを意識してか,公立学校における予算の少なさと機器設備の貧弱さを強調していた。この学校では,メディアコースを選択した生徒が余分に支払った(メディアコースのための)学費も一旦全体予算に組み込まれてしまうため,機器購入予算の獲得に苦労するそうである。
メディア教室の設備は,映像編集ソフトのアドビ・プレミアが導入されたWindows XPデスクトップパソコンが3台。それ以外に,ビデオ編集専用ハードウェア「カサブランカ」(これも!)というものが3台。液晶プロジェクタと大きなスクリーンとそれに付随する音響設備といった程度。8ミリビデオカメラは10台程度といった状態である。
ここに約1年がかりで申請をして認められた新しいパソコンが今月中に5台入る予定だという。
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視察2校目はLake Joondalup Baptist Collegeという私立学校である。Pre-PrimaryからYear12までの子ども達が通う。つまり幼稚園から高校までを含む一貫校である。そして西オーストラリアでもまた私立人気が高く,この学校のPre-Primaryに入学したければ,子供が生まれる前(!)から入学申し込み予約をしなければならない。
こちらでもYear12の子ども達によるメディア制作と分析の授業を見ることができた。すでに授業の始まっている教室に入ると,先生と生徒が向き合って座学レクチャーが進行していた。
先生が解説していたのは映画制作にかかわる知識として,カメラのフィルターに関する専門知識とか,制作にかかる経費に関すること。それらを映画制作関係のWebサイトを参照しながら確認して,各グループに映画制作の立案や予算のところから取り組ませる授業を展開していた。座学を切り上げグループ活動に移ると,生徒達はシナリオ考えたり,シナリオをもとに絵コンテを作成したり,先ほどの解説をもとに映画制作の予算をエクセルで試算したりしていた。
視察1校目の学校と異なり,映画プロデューサの仕事の領域も含んで映像制作に取り組ませているところは新鮮であった。制作する映像のテーマは各グループで自由に設定できる。とあるグループは男女の愛憎劇を描くらしい。
生徒がつくる映画の内容はともかく,制作全般に関するところから取り組む点など,あちこち私学らしさを感じさせた。
教室環境についても公立学校と私立学校では比較するのも可哀想になる。こちらの教室では,14台のiMacと4台のPCが並び,先生は別にノートパソコンも利用している。映像制作にはアップル・iMovieを使ったり,アドビ・プレミアを使ったりするらしい。もちろん校内にはこれ以外にも充実した台数のPCを設置した教室が多数存在している。
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西オーストラリア州では,今,先生のなり手が少なくて大変な問題になっているという。他の職に比べ給与が少ない割りに仕事が大変だからだ。
こちらの公立学校教員の給与は,地域や学校,本人の条件によって異なるかも知れないが,初任でだいたい税込み5万ドル程度から始まるという(1ドル=約100円弱)。普通の教員で約6万ドルと考えればいいようだ。
ところが西オーストラリアは中国特需のおかげで景気がよく,他の職業で倍以上の給与が得られるというのが現実である。苦労して教職の勉強をした後に得られる給与が安いのでは,そりゃ若い人達にとって魅力はない。
西オーストラリアにおける公教育は,教員不足という大問題を抱えた上に,私立学校人気による相対的な衰退に苦しんでいるというのが現状のようだ。そんな部分は日本の公教育にも重なるところがあって,難しさを感じた。
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